ヨーロッパバックパッカー(パリ①)
初めてフランス語で会話をする
まずこの日のミッションは初日の宿泊先である「白い門」に辿り着くこと。
夜の地下鉄は危険だし、最初が肝心だろうということで、多少出費がかさむが空港からタクシーで行こうと予め考えた。
私が持っていた地球の歩き方フランス編には、シャルルドゴール空港のマップが付属されていたため、それを見ればタクシー乗り場は簡単にわかる。
さぁタクシー乗り場を探そうと数分リュックの中をゴソゴソするも、空港マップが見当たらない。
何度探しても出てこず、日本にマップを置いてきたことを察知する。
いきなりフランス語と対峙する場面が到来してしまった。
できればもっとちょっとずつ慣れてきてから外国語でコミュニケーションなどを取りたかったが、そうも言ってられない。
親切なことに入国ゲートをくぐったすぐ側に、馬鹿でかい「?」の文字を掲げたデスクがあった。
誰が見てもヘルプデスクであることは分かる。
「あとはお前の勇気次第だよ」
誰かにそう言われている気持ちになった。
デスクには黒人の小柄な女性が1人で次々と客の対応をしている。
この時私は曲がりなりにもフランス語検定3級を既に保有しており、言いたいことは伝えられる自信があった。
気合いを入れてデスクに向かう。
そして一言。初めてのフランス語会話。
私が発した言葉は今でもはっきり覚えている。
私「ウーエーラースタシオンドゥタクシ?(タクシー乗り場はとこですか?)」
女性はにっこり笑ってくれた。
確実に通じた!
不安が喜びに変わる。
次の瞬間、女性は遠くを指差しながら口を開いた。
女性「%#@$¥*○+°¥$%・♪€%÷%」
聞き取れない。
まるで聞き取れない。
一言も聞き取れない。
この時初めて、外国語習得の鍵はリスニングであることを知った。
焦った私はこう返した。
「メルシーボークー」
典型的な日本人である。
初めて海外でタクシーに乗る
結局、空港内を10分ほどぶらつき、タクシー乗り場っぽいところが見つかった。
夜も遅いため、タクシー乗り場に列もできておらず、それがまたタクシーに乗る際の模範例を私に見せる機会を与えてくれない。
タクシーの横に立ち扉が開くのを待つ。
開かない。
ひたすら待つ。
開かない。
運転手が車内から振り返ってこちらを見る。
ジェスチャーで何となく開けろと言っている雰囲気を察する。
あぁ、タクシーの扉が自動で開くのってもしかして日本だけなのか。
文化の違いに感動を覚える。
タクシーに乗り、行き先を運転手に告げる。
地下鉄のクリメ駅というところまでだ。
しかし何度言っても伝わらない。
私は地下鉄の駅ならどんな運転手でもまず分かるだろうとタカをくくっていた。
が、日本ほどタクシードライバーも道を熟知していないらしく、何度言っても伝わらない。
ちなみにクリメ駅はフランス語で「crimee」と書く。
フランス語では「r」を発音する際、うがいをする様に喉の奥を震わせて発音する(これが初心者にはとても難しい)。
震わせ方が足りないのかと思い、「クリリリュュュユメィィィ!!!」と大げさに伝えても伝わらない。
最終的に地下鉄の駅であることは何となく伝わり、その辺に行ってみるとのこと。
今考えれば、単純に運転手がその駅を知らなかっただけなんだろうと思う。
色々あったが、ひとまず目的地に向けて動き出した。
時刻は22時を過ぎていた。
日本とフランスの時差は7時間。
体内時計では朝の5時まで徹夜しているのと同じ。
車内にいるという安心感から睡魔がどっと押し寄せてきた。
車窓から外を眺めて標識が全てフランス語であることに改めて感動した。