ヨーロッパバックパッカー(パリ⑥)
パリ最終夜は大宴会
気がつけばパリの白い門での滞在も5日目を迎えた。
初日は私を含めて4人だった滞在者も10人近くまで増えていた。
人数も増えたので、再びみんなでワインパーティでもやろうということになった。
みんなかなり酔いがまわり、自分の素性やエピソードを語ることになると、面白い話が出る出る。
エジプトの寝台列車で窓を割って入ってきた暴漢に襲われかけたという女の子二人組。
ベルギーのシティバンクで野宿していたらホームレスの縄張りだったらしくホームレス数人にボコボコにされた大学生。
ノルウェーで魚を密漁して自給自足生活をしていたおじさん。
親がおらず施設育ちで自暴自棄になってこっちに来て、不法滞在を続けているM君。
まるでブラックな海外旅行の本でも読んでいるかのように、興味深い話を沢山聞くことができた。
その日はマダムも一緒に飲んでいたのだが、酒が回ったのか、宴会の最後に強烈な日本人批判を熱弁していた。
日本人嫌いと聞いていたが、遂に本領発揮である。
場がしらけ始めるのも御構い無しに、「日本人は信念がない。あなた達も信念なんか持ってないでしょう?」と、挑発的な言葉を繰り返す。
まぁまぁと聞いていたが、宿泊者の1人、M君がその挑発に乗ってしまい、うるせぇババア!と返したことをきっかけに大ゲンカになってしまった。
その結果、M君は次の日に白い門を出ていかなければならないことになった。
M君とは最初からずっと一緒だったこともあり、M君自身の不法就労先を一緒に探してやったりしながら仲良く話していただけに少し残念だった。
私も、これがきっかけだったかは分からないけど、そろそろ目新しいものもなくなってきたので、次に進もうと決意した。
次の目的地はオマハ・ビーチ
当てもない旅。
東に行こうが西に行こうが自分次第。
だが、私はフランスに来たら必ず見たいものが3つあった。
一つ目は、モンサンミッシェル。
初めて見たのはフランス語の授業の教科書の中だった。
一目で魅了されて、いつか必ず自分の目で見てやると決心し、ヨーロッパに行くきっかけにもなった教会。
二つ目は、シャルトル大聖堂。
こちらも教科書で見たものだったが、青いステンドグラスの独特な美しさに感動を覚えた。
結局この旅では行くことができず、のちの新婚旅行で初めて行くことに。
そして、三つ目。
オマハ・ビーチである。
名前だけで分かる人も多いと思うが、第二次世界大戦でドイツに占領されていたフランスを奪還するために、連合国側が大規模な攻撃を仕掛けた英仏海峡に面した海岸である。
映画「プライベートライアン」ではこの攻防が非常にリアリティ溢れる映像で作られており、当時はとても話題になっていた。
私もこの映画をきっかけに、この海岸でどのような戦闘が繰り広げられたのかを調べるようになり、ここに行ってみたいと思うようになった。
ちなみにここは地球の歩き方にもあっさりと触れられる程度で観光スポットとは言い難い。
それでも命をかけてフランス上陸を目指した連合国軍の兵士達が見た景色と同じものを見てみたいという願望だけで、ずっと行ってみたかった。
そんな訳で次の目的地に選んだのはオマハ・ビーチ。
目的地決めは至高の時間
出発前夜、宿のベッドに日本で予め買っておいたトーマスクックの鉄道時刻表を広げて次の旅程を決める。
私はこの時間がたまらなく好きだ。
次はどこに行こう。
そのためにはどの列車に乗ってどのタイミングで乗り継ぐのか。
考えるだけでワクワクする。
鉄道の時刻表を見ること自体が趣味である鉄道マニアもいると聞くが、この時ばかりは彼らの気持ちがちょっと分かる。
期待に胸を膨らませて次の街を歩く自分を想像しながら、白い門での最後の床についた。