ヨーロッパバックパッカー(スペイン②)
カンプノウの悲劇
FCバルセロナのホームスタジアム「カンプノウ」で今日行われるチャンピオンリーグ予選を観るべきかどうか。
一晩考え抜いた結果、安かったら観戦してもいいんじゃないかという結論に達した。
当日券の最も安いシート。
一体いくら位なのか見当もつかない。
朝起きてすぐに、ひとまず自分が今出費できる上限あたりの30ユーロを握りしめて地下鉄でカンプノウスタジアムまで行ってみた。
試合は夜からということもあり、観客はまだ全くいない。
当日券狙いの行列があることも想定していただけに、やや拍子抜け。
もしかしたら当日券も完売したのかもしれない。
それならそれですんなりと諦めもつくもんだ。
チケット売り場に乗り込み、覚えてきた片言のスペイン語で一番安い席の値段を尋ねた。
スペイン語なんて全く分からなかったのだが、この片言の問いかけに返ってくるであろうネイティヴのスパニッシュをちゃんと聞き取れるように、あらかじめバッグに常備していた4ヶ国語辞典で、ディエスは10後半、ベィンテは20なんたら、トゥレインタは30なんたら、クアレンタなら40なんたらとある程度リスニングの目星をつけていた。
返ってきた言葉は、
「トゥレインタ イ スィンコ」
30なんたらだ!
その後、繰り返し英語も交えて聞き返し続けて、チケットの最安値は35ユーロであることが分かった。
持ち金は30ユーロ。
現金だけを持参して、キャッシュカードは宿においてきたため、お金を下ろすためにはまた地下鉄で20分ほどの宿まで戻らなきゃならない。
この地下鉄往復だってもちろんお金がかかる。
これで良かったんだ。
貧乏旅行中にチャンピオンリーグ観戦なんてありえないだろ。
カンプノウに来れただけでも良かったじゃないか。
これでキッパリと諦めがついた。
これで良かったんだ。
コレデヨカッタンダ
コレデヨカッタンダ。
カンプノウの決意
一時間後。
カンプノウのチケット売り場には40ユーロを握りしめて決意に満ち溢れた顔の私がいた。
後悔だけはしてはいけない。
自分に都合のいい解釈を選び、私は最も安い席の当日券を購入した。
その夜、私は10万人の観客が溢れかえる異常な熱気を初めて体験した。
もちろんその熱気は、私の選択の後悔を吹き飛ばすものであったし、サッカーゲームの中で愛用していた選手、ロナウジーニョ、デコ、サビオラなどを生で観れたことは一生の思い出となった。
ホームの中にある超アウェー
ちなみに当日券と言えども、カンプノウでのチャンピオンリーグの試合が35ユーロで買えるというのは、海外サッカーファンの人なら分かるのかもしれないが、異常に安い値段である。
なぜこんなに安いのか。
その答えは、自分の席に座ってみてすぐに分かった。
席のすぐ後ろがブレーメンのアウェー席だった。
しかも、トラブル対策なのか、アウェー席だけ動物園の檻のような金網に囲まれており、金網越しに何度も熱いファンが威嚇してくる。
バルセロナの選手がブレーメンの選手に汚いタックルなどをしようものなら、唯一空いている金網上部からゴミや空き缶を投げてくる。
前後を気にしながらの初めての海外サッカー観戦は、一生に一度の忘れられない体験となった。