ヨーロッパバックパッカー(パリ④)
マダムとのご対面
目が覚めると10時を過ぎていた。
疲労、時差ボケ、アルコールのおかげでとてつもなく深い眠りだった。
さぁ台所で卵ご飯を食べようと歩いて行くと、昨日の兄ちゃんがボーッと座っていた。
そして昨日と違う光景といえば、マダムも台所にいる。
改めて挨拶をするが、かなり無愛想。
このマダムは韓国人であり、基本的には日本人が嫌い。
でも日本人向けの宿を営んでいる。
謎すぎて理解できない。
名前は!?から始まり事情聴取のような質問を矢継ぎ早に繰り出され、なんだかこちらも不快感を覚える。
まぁ、喧嘩しないように当たり障りなくいこう。
朝飯を終えると、若い兄ちゃんが地下鉄の乗り方を教えてやるとのことで一緒に外に出た。
何とも頼もしい。
回数券の買い方を教わり、切符を入れて改札機を通る。
次の瞬間、隣の改札機をヒャッホーっといった感じで若い黒人たちがジャンプしながら切符を入れずに乗り越えていく。
この既視感は北斗の拳の世界だ。
文化の違いに感動、というか日本ってすごい国なんだと改めて実感した。
私は今パリにいます
パリのど真ん中まで行ったところで、お互い好きなところをブラつこうということで若い兄ちゃんと別れた。
旅の一時の仲間だからこそ、結局はお互いやりたい事をやる。
こういうところも旅の醍醐味である。
寂しくなったらついていく。1人になりたかったら離れる。
それで十分である。
私がパリ散策のスタートして一番最初に選んだ場所とは…
かなり地味な公園である。
多分ガイドブックにも最初にピックアップされることはそんなに無いだろう。
とにかく広ーい緑あふれる公園。
ど真ん中に簡易的に作ったような小さなカフェ
があった。
ただそこはカフェの本場。
店員は皆黒いボーイ服を見にまとい、気品を放っている。
私は日本にいるときから、こんなパリの小さなカフェでコーヒーを飲むのが密かに夢だった。
意を決して空いている席に座る。
ニット帽に髭、ダブついたジーンズのアジア人という事もあり、やや怪訝そうな視線がボーイからもお客さんからも突き刺さる。
そりゃそうだ。
オシャレなカフェの雰囲気から1人だけ完全に浮いてしまっている。
やれやれといった様子で、面倒臭さそうにボーイの1人が注文を聞きに来た。
昨日の空港やタクシーの経験を経て、一回り大人になった私は、自分でも驚くくらいすんなりと
「ボンジュール」
と声をかけた。
ボーイの顔が少しだけ緩む。
フランス語検定3級の私にとって、「カフェで注文してみよう」というお題は、まさに教科書で何度も見てきたシーン。
フランス語で、大きな声で一生懸命注文してみたところ、完全にボーイの様子が変わったのが分かった。
周りのお客さんがこちらをチラチラ見る目も変わっている。
先ほどの怪訝そうな目は無く、片言で頑張っている外国人を優しく見るような目に変わっていた。
よく聞いていたが、「フランス人はフランス語に誇りを持っており、フランス語を使うだけで態度がかなり変わる」というのは本当だった。
ちなみにこれはこの後何度もフランスで経験した。
その度に、英語じゃなくてフランス語に力を入れておいて良かったと感じた。
初カフェを終えた私は、何故か公園の公衆電話から日本にいる母親に電話をかけた。
大学生活ではほとんど自分から電話をした事はなかったのだが、多少お小遣いを頂いたこともあり、一応生存報告をしておくべきという良識ある考え方を持っていた。
「もしもし、今パリにいるんだけど…」
何故だか自分がとても大きくなったように感じた。